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夕方から津田ホールへ。TOKYO GAS ARCHITECT SEMINAR 2006を聴講する。今回の講師は坂茂氏だった。
10分ほど遅れて会場に入ると、レクチャーはすでに始まっていた。しんとした会場の中をこそこそ隠れながら端っこの席に座り、進行に追いつこうとじっと耳を澄ませる。だが、ふと気になって横の席を見ると、どこかで見たことのある顔がちょこんとあった。ごしごしと目をこすってそっと顔を覗いてみると、そこにはなんとU先生が。あまりにも真剣なまなざしでレクチャーに聴き入っていたので、その場での挨拶は控えておく。ただ、こんな偶然もあるものなのだと思って、少しびっくりした。レクチャーは、住宅→公共建築→紙管シリーズ→仮設シェルター系へと進行。時折ユーモア溢れる冗談が交えられ、会場は終始なごやかな雰囲気に包まれていた。 レクチャーの中で印象的だったのはふたつあって、ひとつはモダニズム、とくにミースについての言及だった。 例えば、一般的にも有名な「壁のない家」についての話がいちばんわかりやすい。坂氏いわく、「壁のない家」は、ミースの「バルセロナパビリオン」を乗り越えることがひとつのテーマで、とくに、壁と柱、ふたつの構造体が存在するという「あいまいさ」に着目し、柱だけでも構造が成立し、壁だけでも成立するという矛盾(?)をどう解消するのか、積極的に取り組んだのだという(もちろん、それが目的的に行われたわけではない)。斜面の土圧を押さえ、横力に耐え、かつ、「バルセロナパビリオン」を超えたニュートラルな空間を実現するために試行錯誤を続けた結果、「床を曲げる」という手法に至る。床でもあり、壁でもある。部品の組み合わせではなく、一体的に解く手法。これはぼくの勝手な解釈だけど、ミースとは違う「あいまいさ」を取り入れることで、「バルセロナパビリオン」を乗り越えようとしたのだろうか。 ここで誤解のないように付け加えておくと、乗り越えると言っても、コールハースが「ミースを尊敬していないが、愛している」というスタンスなのに対し、坂氏は「ミースを尊敬しているからこそ、乗り越える」というスタンスだったし、レクチャーの節々には、そんなニュアンスがたくさん込められていた。 気になったのは、ミースについての発言が、プロポーションの絶妙さやディテールの素晴らしさなど、あくまで建築的な評価だけに限定していて、「なぜ乗り越えようとするのか」については、あえて触れなかったこと。だが、その意図については、ふたつめに印象的だった「マイノリティ」についての発言を咀嚼していくに連れ、少しずつ輪郭が見え始めていく。 ふたつめに印象的だったのは、「グローバリズムが吹き荒れる現在、マイノリティのための建築は無視されている。自分にとって、今後それをつくっていくことが課題である」と言う発言だった。ここでいうマイノリティとは、坂氏の一連の活動を見ればすぐわかるように、経済的弱者ではなく、災害によって家を失った人々のことを指している。 人が家を失った時にどのように対応していくのか。また、彼らに住まいをどのようにして提供すればいいのか。そうした課題に対する答えとして、「紙の家」がある。大量生産は国家にまかせ、個人では個人でできる特殊なことに取り組んでいく。そして、自分にできる解決策は、建築を通じて提案するものである。建築と社会というものをつなげ、社会にフィードバックしていく。 それらを当たり前のように話す坂氏は、すごくかっこいいと思うし、そういうことこそ、建築家本来の役割なのだと思った。目が覚める発言というのは、こういうことを言うのだろう。 レクチャーは満場の拍手で幕を閉じ、ぼくはその後渋谷に向かう。レクチャーの内容はまだよく整理できていないが、いつかまとめられたらと思う。何はともあれ、非常に有意義な時間を過ごすことができた。
by tzib
| 2006-03-14 23:14
| architecture
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